着物を選ぶときにどんな色柄にするか、誰もが迷うのではないでしょうか。
着物を着るのが楽しみになるように好みのデザインで選ぶのはもちろんですが、好きな文様があると着物の魅力をより楽しめるのではないでしょうか。
文様のなかでも特に有名な着物の友禅染についてご紹介していきたいと思います。
友禅染の歴史や技法、種類や特徴を知ると、友禅染がもっと好きになること間違いなしですよ。
友禅染とは
友禅染の歴史は古く、室町時代から始まりました。
友禅染は、細かい筆遣いで繊細な絵柄を描き、それに染料を塗り重ねていくことで、美しい色彩と柔らかな風合いを持った染物を作り出します。
友禅染の制作方法は独特の手法や工程があり、糸目糊を使って模様の輪郭をなぞります。
隣同士にある色が混ざらないように防いだあとに、絵画のような模様を描きながら染め上げていきます。
糸目糊と呼ばれるのは、色を挿したあとに仕上げの糊を落とすと、糸のような線状に残ることから来ています。
輪郭部分に防波堤の役目があるので、模様の塗料がにじむことなく日本画のような染め物として表現できます。
これらの手法から友禅糊と呼ばれることもあります。
友禅染については、手法によっても多少の呼び方が変わります。
友禅の手法の方法も増えているので、それぞれの仕上がりが違いますし比較するのも、友禅染の面白さではないでしょうか。
友禅染は一枚の着物に対してどの程度の手間がかかっているのかによっても値段が変わります。
一般的な友禅染の価格は、数十万円~数百万円と幅広いのも特徴です。
友禅染の歴史
今では着物といえば友禅染ともいえるほど、誰もが知っている文様です。
友禅染が生まれたのは江戸時代に入ってからだと言われています。
宮崎友禅斎さんの人気にあやかって、ある呉服屋が小袖の図案を依頼しました。
これが友禅染の始まりだと考えられています。
当時は幕府から奢侈禁止令が出ており、庶民が贅沢をするのを制限する禁止令が出ていました。
着物についても金銀などの刺繍を使ったものが贅沢品とみなされ、禁止されていた時代です。
そんな時代でも友禅染は防染糊を使用するだけでできたので、幕府の金指定をかいくぐることができました。
色鮮やかな着物が今にも続いているのはこの歴史があったからではないでしょうか。
友禅染は今でいうテンプレートの雛形のようなものが残っていたこともあり、日本各地でその手法が伝統として伝えられました。
友禅染の名前からもわかるように、創始者の名前からとったものになります。
白生地に手書きで模様染めをする技法を用いていたことでも知られ、扇絵ならではの華やかなデザインの模様を広げた人物でもあります。
ただし、宮崎友禅斎については諸説あるので、生涯を通して謎の多い人物としても知られています。
明治時代に入り、ヨーロッパから化学染料が日本に入ってきたことによって澱粉糊からゴム糊を使う人も出てきました。
時代の変化とともに友禅染の手法が増え、さまざまな柄が楽しめるようになっていきました。
友禅染にはどんな種類があるの?
一言に友禅染と言ってもさまざまな種類があります。
友禅染はつくられた地域によっても違いがあり、呼び名が異なります。
それぞれの特徴を押さえておくと、より友禅染の魅力を実感できるのではないでしょうか。
友禅染の種類について説明していきます。
京友禅
宮崎友禅斎の影響を最も受けたと言われているのが、京友禅です。
- や朱色(紅)、桃色などの明るい色彩のものが多い
- 花熨斗や御所車などの古典的な柄が多い
- 自然文様が多い
京都には友禅染に必要な豊かな水が豊富だったこともあり、大きく発展したと考えられています。
京友禅の特徴は、それぞれの技術を持った職人が分業して、ひとつの着物を仕上げていることにあります。
最初に墨で構図を描いたあとに糊を使ってせき止めをします。
その後、筆で色を押して刺繍や金箔などを使い文様を仕上げていきます。
工程の分業化によって、より贅沢で華やかな着物ができあがります。
加賀友禅
宮崎友禅斎が京都から加賀に移り住み、加賀藩の庇護を受けたことが始まりだと考えられています。
- 加賀五彩と呼ばれる「紅」「緑(草)」「藍」「古代紫」「黄土」を基本の色としている
- 金・銀・金箔などの刺繍は使われていない
- 自然を題材にした絵画調が多い
なかでも最も有名なのは、虫食い葉などの柄が有名なものになります。
加賀友禅は、もともとあった梅染が変わったものとも考えられており、両方の良さが組み合わさり加賀友禅が誕生したとも言われています。
加賀にはもともと水源が豊富にあること、友禅流しなども有名ですよね。
まわりから中心に向かって色をぼかしていく手法を使っています。
手書き風のデザインがとても多いこと、落款がついているものが多く工芸品にも認定されています。
十日町友禅
友禅染のなかでも比較的歴史が浅く、新しいのが十日町友禅です。
新潟県の十日町地方で制作されているものです。
昭和初期までは縮や絣を使ったデザインのものが中心になり、昭和30年以降に友禅染の技術が伝わるようになりました。
十日町友禅が生まれるまでに、約10年もの時間をかけて今の形を作り出しています。
艶やかな色彩のものはもちろん、シックな色合いの友禅染など種類がさまざまです。
他の友禅染と比較すると、若手の職人さんが多いのでさまざまな技法を柔軟に取り入れている特徴もあり、時代とともに変化しています。
十日町友禅は一貫生産のシステムによって制作されています。着物だけでなく、振り袖や訪問着、色留袖などのさまざまな着物を作っています。
江戸友禅
他の京友禅や加賀友禅と比較すると、あっさりとした色味が特徴なので印象が全く違うかもしれません。
- 海や川などの写実的な風景を多く描かれている
- 個性的なデザインも多く創作性
- 人の職人がすべての工程を手掛けることが多い
江戸友禅は、海や川などの写実的な風景を多く描いている特徴があります。
磯松や釣り船、千鳥、網干などを描いたものが多く、一人の職人がすべての工程を手掛けて作ります。
もともと京都で生まれた友禅染ですが、徳川家康が江戸幕府を開いたことによって、京都から江戸に多くの友禅染の職人が移り住むことになりました。
江戸には隅田川などの水資源が豊富だったこともあり、友禅染に適した環境でした。
ただし、奢侈禁止令が出ていたことから落ち着いた色合いのデザインが多く、今でもそれは変わっていません。
現在では東京友禅と呼ばれることのほうが多いのですが、昔ながらの作風をとても大切にしています。
糸目描きとわずかな色だけを使って描いているものもありますし、落ち着いた雰囲気のものもあります。
東京友禅は個性的なデザインも多く創作性があり、遊び心のある友禅染が特徴です。
名古屋友禅
尾張や美濃に友禅の技法が伝えられたことで生まれたのが、名古屋友禅です。
この地域では、古くから絹織物の産地としても知られている場所です。
300年以上の歴史があり名古屋友禅がはじまった当時は華やかな印象の友禅染でしたが、色彩を押さえた単彩・濃彩などの渋いものが多くなりました。
もともと名古屋の質素倹約を重んじる歴史が反映されているとも言われています。
1983年に国の伝統工芸品の指定を受けたことによって、名古屋友禅として流通が始まったと言われています。
友禅染の着物の違いを見極めるのは難しい
友禅染は生産地によって、さまざまな特色があります。
その地域ごとの特徴や違いがわかっていても、実際に種類を判断するのはなかなか難しいと言われています。
機械で印刷された友禅染がたくさん出回っているため、職人さんでないと見極められない人も少なくありません。
そもそも地域によるデザインが昔ほど仕切られているわけではないので、それぞれの地域の良さを活かしつつ作られている特徴もあります。
地域差による日本の染め物文化である友禅染ならではの魅力を実感したいものですね。
また友禅染には有名な作家(職人)さんもいますので、その特徴を覚えておくとより面白さを実感できるはずですよ。
まとめ
友禅染の種類や違いをわかっていただけたのではないでしょうか。
京都友禅や加賀友禅などの世界的に有名な友禅染もありますが、十日町友禅や名古屋友禅などの知名度こそ低いものの素晴らしい友禅染を作っている産地は複数あります。
着物はとても奥深い世界だからこそ、知れば知るほど楽しみの幅も増えていきますよ。
友禅染は絵画のようなデザインが特徴でもあり、一つ一つが作品のような美しさになります。
友禅染の着物や訪問着、振り袖などはもちろん、着物の小物にもよく使われています。
着物の模様や柄の美しさはもちろん、種類の豊富さを理解しつつそれぞれの違いを楽しんでいきましょうね。